日本のインバウンド戦略に新局面:富裕層旅行者が牽引する「質」の成長、世界を凌駕する伸びを記録
日本政府観光局(JNTO)が2025年6月11日に発表した最新の調査結果は、日本のインバウンド市場が単なる量の回復に留まらず、高付加価値旅行者(1人あたりの着地消費額100万円以上)という「質」の高い層によって力強い成長を遂げている実態を明らかにしました。
2023年の訪日高付加価値旅行市場は、消費額、旅行者数ともに大幅な増加を見せ、その伸び率は世界全体の高付加価値旅行市場を上回るという、日本の観光戦略における新たな光明が差し込んでいます。
目次
驚異的な回復力:高付加価値旅行市場が示す日本の魅力
2023年の訪日高付加価値旅行者の消費額は1.0兆円に達し、2019年と比較して実に50.6%もの増加を記録しました。
同時期の世界の高付加価値旅行市場の消費額の伸びが17.6%であったことを考えると、日本の高付加価値旅行市場の突出した成長が際立ちます。
旅行者数においても同様の傾向が見られ、2023年の訪日高付加価値旅行者数は59.0万人となり、2019年比で83.2%という驚異的な伸びを達成しました。これは、同期間の訪日外客数全体が2019年比で21.4%減少していた中で、高付加価値旅行者層が市場全体の回復を牽引していることを明確に示しています。
さらに注目すべきは、訪日外国人旅行消費額全体に占める高付加価値旅行消費額の割合が、2019年の14.0%から2023年には19.1%へと5.1ポイント増加した点です。また、訪日外客数に占める高付加価値旅行者の割合も、2019年の1.0%から2023年には2.4%へと1.4ポイント増加しており、訪日市場全体における富裕層の存在感が着実に拡大していることが見て取れます。
多様化する富裕層市場:中国に加え米国・台湾が台頭
2023年の訪日高付加価値旅行者の消費額および旅行者数の市場別割合では、中国、米国、台湾がトップ3を占めました。
消費額上位3市場(2023年):
- 中国(23.0%)
- 米国(16.3%)
- 台湾(13.1%)
旅行者数上位3市場(2023年):
- 中国(24.6%)
- 米国(16.5%)
- 台湾(12.7%)
特に米国と台湾は、2019年と比較して消費額、旅行者数ともにシェアを大きく伸ばしており、日本への高付加価値旅行の新たな主要市場としてその存在感を強めています。世界の高付加価値旅行市場全体では中国のシェアが低下傾向にあるものの、訪日市場においては依然として中国が最大のシェアを維持しており、その回復が日本のインバウンド全体に与える影響の大きさが改めて示されました。
インバウンド集客プロとしての分析と所感:持続可能な観光への羅針盤
今回のJNTOの調査結果は、日本のインバウンド戦略が新たなフェーズに入ったことを明確に示しています。単に数を追う「量」の時代から、1人あたりの消費額を重視する「質」の時代への転換が、着実に実を結び始めているのです。
1. 「消費額拡大」戦略の成功と今後の深化:
高付加価値旅行者の獲得は、「観光立国推進基本計画」で掲げられる「消費額拡大」の目標達成に直接的に貢献しています。彼らは一般的な旅行者よりも高額な宿泊施設、高級な飲食、ユニークな体験、高価な商品に投資する傾向があるため、経済波及効果が非常に大きいと言えます。今後は、富裕層の多様なニーズをさらに深く掘り下げ、彼らが「お金を払ってでも得たい」と感じるような唯一無二の体験やサービスを、よりきめ細かく提供していくことが重要です。例えば、伝統文化のプライベート体験、地域独自の食文化を巡るガストロノミーツーリズム、オーダーメイドのラグジュアリーツアーなどは、さらなる消費額増加に繋がるでしょう。
2. 市場ポートフォリオの最適化と分散化の加速:
中国市場の回復力は依然として強力ですが、米国や台湾の富裕層が台頭していることは、市場リスクの分散という点で非常に好ましい傾向です。これにより、特定の国・地域の経済状況や政治情勢に左右されにくい、強靭なインバウンド構造を構築することが可能になります。欧米豪の富裕層は、単なる観光地巡りではなく、地方の未開の魅力を探求したり、日本の文化や自然に深く触れる体験を重視する傾向があります。彼らのニーズに応えるためにも、地方の隠れた名所や、日本の精神性・美意識に触れるプログラムの開発、そして多言語での情報発信を強化することで、より多様な国・地域からの高付加価値旅行者を誘致できる可能性を秘めています。
3. 「地方誘客促進」への期待とインフラ整備の必要性:
富裕層は、混雑を避けて質の高い体験を求める傾向があるため、地方への誘客において極めて重要な存在となります。彼らが地方へ足を運ぶことで、地域経済の活性化、雇用創出、文化継承への貢献といった多岐にわたる恩恵が期待できます。しかし、そのためには地方におけるハイクラスな宿泊施設の整備、プライベートな移動手段(ハイヤー、小型チャーター機など)の手配、専門性の高い通訳ガイドの育成、高付加価値なアクティビティの開発が不可欠です。これらのインフラが整えば、富裕層は「あえて地方を選ぶ」という選択肢を強く持つようになるでしょう。
今回の調査結果は、日本のインバウンドが、量だけでなく質を追求する成熟期に突入したことを明確に示しています。JNTOが掲げる「持続可能な観光」の実現に向けては、高付加価値旅行者の誘致をさらに強化し、彼らが日本で得られる体験価値を最大化していく戦略が、今後の日本の観光産業をさらに発展させる鍵となるでしょう。
インバウンド集客プロとしての所感:質を重視した持続可能な成長へ
日本政府観光局(JNTO)が発表した2023年の高付加価値旅行市場に関する調査結果は、日本のインバウンド戦略が新たな段階に進んだことを明確に示しています。これは、単に訪日客数を増やす「量」の追求から、一人当たりの消費額を重視する「質」への転換が成功しつつある証と言えるでしょう。
1. 高付加価値層へのターゲティング強化が成果に直結
今回の調査で、訪日高付加価値旅行者の消費額が2019年比で+50.6% 、旅行者数が+83.2%と大幅に増加していることは、JNTOが推進する高付加価値旅行の戦略が奏功していることを示しています 。特に、訪日外国人旅行消費額全体に占める高付加価値旅行消費額の割合が2019年の14.0%から2023年には19.1%に増加した 事実は、富裕層が日本のインバウンド市場において、質的成長の主要な牽引役となっていることを裏付けています。高額消費を行う層は、単に消費額を押し上げるだけでなく、地方への誘客や特定産業への波及効果も大きいため、今後もこの層へのアプローチを強化すべきです。
2. 市場の多様化とリスク分散の重要性
訪日高付加価値旅行の市場別順位では、中国が引き続きトップであるものの、米国と台湾が消費額・旅行者数ともに大きくシェアを伸ばしている点が注目されます 。これは、特定の市場に依存することなく、多様な国・地域からの富裕層を取り込むことで、市場変動リスクを分散し、より安定したインバウンド基盤を構築しつつあることを示しています。欧米豪市場の富裕層は、日本独自の文化体験や地方の自然、食に対する関心が高い傾向にあります。彼らのニーズに応えるため、地方でのラグジュアリーな体験コンテンツや、文化・歴史を深く掘り下げるツアーの造成をさらに進めることで、一層の市場多様化と消費額向上に繋がるでしょう。
3. 地方誘客と持続可能な観光への課題
高付加価値旅行者は、都市部の混雑を避け、よりプライベートで特別な体験を求める傾向が強いため、地方誘客の重要な担い手となります。彼らが地方へ足を運ぶことで、地域経済の活性化や雇用創出に大きく貢献できます。しかし、そのためには地方におけるハイクラスな宿泊施設、質の高い交通手段、多言語対応可能な人材、そして富裕層のニーズに合った独自の体験コンテンツの整備が不可欠です。オーバーツーリズム問題が顕在化しつつある現在、持続可能な観光を実現するためにも、地方への分散化を促す戦略は喫緊の課題であり、高付加価値旅行はその解決策の一つとして大きな期待が寄せられます。
結論として、 日本のインバウンド市場は、高付加価値旅行層の拡大によって、量的成長だけでなく質的成長を伴う新たな局面に入りました。今後は、富裕層の多様なニーズを深く理解し、彼らが求める「特別な体験」を提供できるような地域資源の磨き上げと、それらを効果的に届けるマーケティング戦略の更なる高度化が、持続可能で強靭な観光立国を築く鍵となるでしょう。
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注釈
JNTO:訪日の高付加価値旅行市場は消費額・旅行者数ともに大幅増加