外国人によく聞かれる質問8つと答え方|浅草・人力車の現場から
公開日: 2026年9月25日 | 更新日: 2026年9月25日
外国人によく聞かれる質問8つと答え方|浅草・人力車の現場から
「多言語対応をしましょう」と言われて、まずメニューの翻訳から始める事業者の方は多いと思います。
しかし、現場で実際に聞かれている質問の多くは、メニューを翻訳しても答えられません。
私たちMILOKUの代表・川名は、浅草で人力車の車夫として外国人観光客を乗せてきました。
この記事では、その現場で実際に聞かれた質問8つと、実際に答えていた内容をそのまま紹介します。
あわせて、客層の変化によって質問の中身が変わってきていることを、公的統計と自社の定点観測の両方から示します。
実際に聞かれた8つの質問
| 質問 | |
|---|---|
| 1 | 浅草ってどこ? 東京は知ってるけど浅草は知らない |
| 2 | 日本人はなんでみんな笑顔なの? |
| 3 | 美味しいチェーン店を教えて |
| 4 | 一番おいしい日本食は? |
| 5 | 観光客向けじゃないスポットを教えて |
| 6 | 空港までの行き方 |
| 7 | ハラール対応について |
| 8 | キリスト教徒は神社に行っていいの? |
8問のうち、店のメニューや商品について聞かれたものは1つもありません。
通説:多言語対応とは、翻訳することである
インバウンド対応というと、メニューやウェブサイトの翻訳、翻訳アプリの導入から始めるのが一般的です。
実際、私たちも「まず翻訳を」とご相談をいただくことが多くあります。
翻訳は必要です。ただし、それは入口にすぎません。
現実:聞かれているのは、ガイドブックに載っていないこと
8つの質問を並べると、傾向がはっきりします。
| 質問の種類 | 該当する質問 |
|---|---|
| 生活情報(ガイドに載っていないこと) | 1・3・5・6 |
| 文化・宗教 | 2・7・8 |
| 食 | 3・4 |
聞かれているのは、浅草寺の由来でも、仲見世の歴史でもありません。
どのチェーン店が美味しいのか。観光客がいない場所はどこか。空港へどう帰るのか。
検索すれば出てくることは、聞かれません。検索しても出てこないから、目の前の人に聞くのです。
多くの事業者が、自店の歴史やこだわりを英訳することから始めます。
現場で聞かれているのは、そこではありません。
1つずつ、現場でどう答えていたか
1.「浅草ってどこ? 東京は知ってるけど浅草は知らない」
現場での答え方は、知られているものを使って位置を説明するというものでした。
「東京都の東部(台東区)にある、東京で最も歴史のある下町エリアの一つです。
巨大な赤い提灯がある浅草寺や、江戸時代の雰囲気が残る仲見世商店街が有名です。
上野や東京スカイツリーからもすぐ近くです。」
この質問は、日本の事業者の前提を壊します。
私たちは「浅草なら世界的に知られている」と考えがちです。
ところが現場では、「Tokyo」は知っていても「Asakusa」は知らないという反応が返ってきます。
実務に直結します。
| やること | 理由 |
|---|---|
| Googleビジネスプロフィール・予約サイト・看板で「Asakusa」だけで終わらせない | 地名として独立して認知されていない |
| 「Tokyo」や、知られている施設名と併記する | 知られているものを手がかりに位置を伝える |
上野・秋葉原・台東区は、浅草よりさらに知られていません。 エリア名だけで勝負しないことです。
2.「日本人はなんでみんな笑顔なの?」
「日本の文化では、笑顔は相手への敬意や思いやり、調和を保つための接客マナーとして
大切にされています。困惑した時や照れくさい時にも微笑む習慣があります。
決して不自然なものではなく、歓迎して快適に過ごしてもらいたいという気持ちの表れです。」
わざわざ質問されるということは、日本人の笑顔は、外国人にとって説明を求めたくなるほど目立つということです。
裏を返せば、笑顔はすでにサービス価値として認識されています。
英語のフレーズを覚えるより先に、できていることがある、と考えることもできます。
3.「美味しいチェーン店を教えて」
接客する側の直感と逆の質問です。 日本人は、チェーンより個人店や名店をすすめたくなります。
現場での答えは、具体的な店名でした。
| ジャンル | 答えていた店 |
|---|---|
| 牛丼 | 吉野家・すき家・松屋 |
| 回転寿司 | スシロー・くら寿司 |
| うどん | 丸亀製麺 |
| ラーメン | 一蘭・一風堂 |
チェーンが求められる理由として考えられるのは、安心して入れる・価格が読める・どこにでもある、
そして何より日本人が普段食べているものだからです。
自店がチェーンでなくても、近所のチェーンをすすめて構いません。 信頼につながります。
逆にチェーン店の側は、「外国人には選ばれない」と思い込む必要はありません。
4.「一番おいしい日本食は?」
「日本食には何がありますか」ではなく、「一番」を聞かれます。
「好みによりますが、寿司・ラーメン・和牛のすき焼きやしゃぶしゃぶ・天ぷらが特に人気です。」
ここから引き出せる実務は1つです。
メニューを全部翻訳するより、「うちの一番」を1つ決めて押すほうが速い。
3の質問と同じで、求められているのは網羅ではなく即答です。
5.「観光客向けじゃないスポットを教えて」
3と同じ「リアルな日常を見たい」という欲求の別の現れです。
現場では、レトロな街並みが残る谷中・根津・千駄木(谷根千)のような、
浅草から足を延ばせるエリアや、地元のスーパーマーケットやデパ地下を案内していました。
日本人が普段買っているお惣菜や食材を見られる場所です。
ただし、住宅街や住民の生活圏に人を送ることには線引きが要ります。
観光客の集中が住民の生活に影響する問題は各地で起きています。すすめ方には配慮が必要です。
6.「空港までの行き方」
滞在の最後に必ず発生する不安で、しかも観光案内では扱われにくい領域です。
そして浅草には、他のエリアが真似できない強みがあります。
浅草駅は、都営浅草線で成田空港・羽田空港の両方へ、乗り換えなしで行けます。
京成線・北総線方面が成田へ、京急線方面が羽田へつながっています
(東京都交通局の浅草駅の時刻表でも、この2方向が案内されています)。
大きな荷物を持った移動が負担になる場合は、ホテルや空港との配送サービスを組み合わせる方法もあります。
店や宿が「空港への帰り方」を1枚用意しておくだけで、喜ばれます。
自店の最寄り駅から各空港へどう行くのか、一度書き出しておくことをおすすめします。
7.「ハラール対応について」
この質問が来るのは、偶然ではありません。数字が裏付けています。
日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2026年1〜8月の訪日外客数は前年同期比2.7%減でした。
その中で、ムスリム圏と南アジアはいずれも二桁で伸びています。
| 市場 | 2026年1〜8月の累計 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| インドネシア | 451,200人 | 11.4%増 |
| マレーシア | 421,100人 | 15.9%増 |
| インド | 250,100人 | 20.2%増 |
| 中東地域 | 179,300人 | 16.3%増 |
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年8月推計値)」(2026年9月16日発表)。
2026年の数値は推計値です。
全体が減っている年に、この4市場だけが伸びている。 質問が増えるのは当然です。
そのうえで、事業者の方に必ずお伝えしていることがあります。
日本には、統一されたハラル認証マークがありません。
一般社団法人ハラル・ジャパン協会が公開している一覧によれば、
日本国内の認証機関は日本ムスリム協会、イスラミックセンター・ジャパン、日本ハラール協会、
日本アジアハラール協会、京都ムスリム協会、日本イスラーム文化センター、
ムスリム・プロフェッショナル・ジャパン協会、日本ハラールユニット協会など、複数存在します。
団体ごとに基準もマークも異なります。
「この認証を取れば大丈夫」と一言で言える状態ではありません。
認証の要否や基準については、必ず認証機関や専門家に直接ご確認ください。
私たちが判断できる領域ではありません。
事業者としてすぐできるのは、自店のメニューで何を使っているかを正確に説明できるようにしておくことです。
豚肉やアルコールの使用有無は、調味料まで含めて聞かれます。
8.「キリスト教徒は神社に行っていいの?」
宗教施設を案内する事業者が必ず直面する質問でありながら、ほとんど語られていません。
ここで大切なのは、2つの話を混ぜないことです。
| 内容 | 誰が答えられるか |
|---|---|
| 神社の側は、他宗教の信者の参拝や見学を拒みません | 事実として伝えられます |
| その人が信仰上、参拝してよいかどうか | その方ご自身の領域です |
現場で伝えていたのは前者と、マナーでした。
手水舎で手を清める、静かに参拝する、文化的な敬意をもって見学する。
その姿勢があれば、どなたでも見学や参拝を楽しめます。
判断そのものは、相手に委ねる。 これが正確で、かつ誠実な答え方だと私たちは考えています。
客層が変われば、聞かれることが変わる
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
質問の内容は、客層によってはっきり違います。
| 客層 | 質問の傾向 |
|---|---|
| アメリカ人・欧米系 | 日本人・文化・歴史について |
| アジア系 | グルメ・有名観光地について |
そして、浅草の客層はいま、前者へ移りつつあります。
根拠①:雷門前で数えた言語
私たちMILOKUは、毎月第1土曜の14時から1時間、浅草・雷門前の同じ交差点で定点観測を続けています。
2026年3月7日の観測は30回目でした。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 通行人100人の内訳 | 日本人28人 / 外国人72人 |
| 聞こえた言語(25グループ) | 英語11・中国語7・韓国語4・その他3(スペイン語2・フランス語1) |
観測を始めた当初、雷門前で聞こえる外国語は中国語が過半でした。
それが現在は英語が最多になり、多国籍化しています。
根拠②:公的統計
| 市場 | 2026年1〜8月の累計 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 中国 | 2,904,600人 | 56.7%減 |
| 米国 | 2,305,300人 | 6.1%増 |
| フランス | 318,300人 | 8.6%増 |
| スペイン | 170,500人 | 10.5%増 |
| メキシコ | 151,300人 | 28.0%増 |
| ロシア | 131,900人 | 22.1%増 |
現場で数えた言語の変化と、公的統計の増減が、同じ方向を指しています。
だから、多言語対応の中身が変わります
| かつて(中国語が過半だった頃) | いま(英語が最多・欧米系が増加) |
|---|---|
| グルメ・有名観光地を聞かれる | 日本人・文化・歴史を聞かれる |
| メニューを翻訳すれば足りた | 「なぜこれがあるのか」の説明が要る |
翻訳ツールを入れれば終わり、ではなくなっています。
なぜこの料理があるのか。なぜこの作法なのか。なぜ日本人はこうするのか。
答えるべき内容が、商品説明から文化の説明へ移っています。
なお、ハラール対応を求める層は、この2分類には収まりません。
ムスリム圏は第3の軸として、別に考える必要があります。
答えたくない質問への備え
最後に、実務として大切なことをお伝えします。
接客の現場では、答えたくない質問が来ることがあります。
代表・川名も、差別的な質問を受けて困ったことがありました。
そのときに使っていたのが、「I’m happy(私は幸せです)」という一言です。
これは逃げではなく、現実的な技術です。
| なぜ機能するか | |
|---|---|
| 肯定も否定もしていない | 同意すれば加担になり、否定すればその場で対立が起きる |
| 話題がそこで終わる | 質問に答えていないので、続ける手がかりが残らない |
| 空気が悪くならない | 残りの時間を一緒に過ごす相手に対して現実的 |
どの国のお客様であっても、答えたくない質問は来ます。
接客の記事は「どう答えるか」ばかりを扱いますが、
「どう答えないか」をあらかじめ決めておくことは、現場に立つスタッフを守ります。
答えないための言葉を、店として1つ決めておいてください。
まとめ|明日からできること
| やること | 理由 |
|---|---|
| 自店の「一番」を1つ決める | 網羅ではなく即答が求められている(質問3・4) |
| エリア名に「Tokyo」など知られている名前を併記する | 地名が単独で認知されていない(質問1) |
| 最寄り駅から各空港への行き方を1枚用意する | 滞在の最後に必ず聞かれる(質問6) |
| 近所のチェーン店や日常の店もすすめる | 求められているのはリアルな日常(質問3・5) |
| 使っている食材を調味料まで説明できるようにする | ムスリム圏が二桁成長している(質問7) |
| 答えたくない質問への一言を決めておく | スタッフを守るため |
翻訳は入口です。 その先に、説明が要ります。
私たちMILOKUは、浅草で自ら店舗を運営し、同じ交差点に毎月立って客層の変化を数え続けています。
統計と現場の両方から、自店がいま向き合っているお客様と、用意すべき答えをご一緒に整理できます。
インバウンド集客でお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。